予備校の先生として、単語帳ただ眺めてるだけ星人をどうにかこうにかして志望校に無理やり押し込むだけならまだしも、「趣味の水泳」となるとどうしたもんかね、という話の続き。
勘違いしてほしくないのは、単語帳ただ眺めてるだけ星人は、やる気がないとか、不真面目だとかいうわけでは決してないのです。自分の思いつくかぎりでの努力はしているし、できるかぎりの時間も割こうとしています。
ただ、自分の前にはどんな選択肢が広がっていて、その選択肢毎に必要な準備は何で、その準備の実現のために今の自分に必要なものは何で、時間はどれくらい必要で、他にはどんな方法があって、、、ということの見当がつかない。そういうのを考える発想がない。発想を生み出せるだけの経験が、考える材料がない。
だって、ねえ、親とか教師とかからは、「もっと勉強しろ」「遊んでないで早くやれ」「受験生としての自覚が足りない」とかしか言われてないんですよ普段。生徒ひとりひとりの得意な単元や暗記法のクセを踏まえた上で日本史の勉強法について議論してくれるような教師なんて、一体どれだけいるだろうか。
コーチからだって、相当に思慮深い人でもないかぎり、「もっと速く」「キックを止めるな」「頑張れ」「集中」「なんでできないんだ」「できないならやり直し」としか言われないでしょ、“普通”は。その言葉のどこに考える材料があるってのか。それだから、5年も10年も選手クラスにいるのに、自分では自主練メニューが作れないと平然と言ってのける人が、わりとゴロゴロいる。
…いや、材料がただ並んでるだけでも、たぶん足りないかな。
たとえば、最近台頭してきている新潟のチームではこういう取り組みをしているそうだけど、
これが参加させてもらったダッシュ新潟の練習メニューです。
基本的に練習量としては週5回のスイム、週1回のウエイト。1回の距離は3000程度で、4000行ったのは年に何回あったかなというレベルだそうです。
このメニューで200選手用とおっしゃっていたことにびっくり。 pic.twitter.com/FKCzN50jSl— 暇なおじさん3.0 (@kakkies03) January 5, 2020
練習前後のエクササイズは、山崎コーチ@hari_sports_YY から目的や動きの指示がしっかりなされているように見えました。中学生や高校生みんなが陸上でのエクササイズをちゃんと意識してしっかりやっているのを僕はあまりみたことがありません。なので印象的。
これが陸上でのエクササイズ一覧です。 pic.twitter.com/TVSIKMzZhr— 暇なおじさん3.0 (@kakkies03) January 5, 2020
こういう、練習の回数や強度を闇雲に上げてもそれはマイナスにしかならないこと、かといって単に練習回数を減らせばよいというわけでもないことを理解し、1回の大切な練習を100%のパフォーマンスで臨むために、つまり、しょっぱな1本目の25mダイブでベストを狙うために自分は陸で何をすべきなのかを自分で考え、自分で選んで、自分がいけると思うまで水に入らない、、、だなんて、単語眺め星人からしてみれば、今まで言われてきたこと、大切だと教えられてきたこととまったくの真逆じゃないですか。このエクササイズ一覧だって、単語眺め星人に見せただけじゃ、「私はどれをどのくらいやったらいいですか?」からの、「自分で考えろ? うーん、じゃあ頭から順番に全部やるか」、「うまくできないなあ」、「効果のほどはよくわからんが、今日もやる流れみたいだしとりあえず腕回すか」、で、数日後には「ああ、あの体操ね…ちょっと最近はやれてないですね…とりあえず全力で泳いじゃえばいいかなと思って…」ですよ、“普通”はね。材料の種類の前にまず自分のことをわかってないと、きっとこの差は放っておいても広がるばかりで、それだけでお腹痛くなりそう。
そんなことより高瀬よ、さっきから“普通”をディスりすぎでは、とお思いですか?
いやいや、“普通”なんて、そんなもんですよ。予備校関係者にとっちゃ「明青立法中レベルであれば、合格ラインを取るだけなら順当にやればまあ普通にいける」ってもんだし、新潟の例の重要性が当たり前に理解できる人にとっちゃ「JOやインカレは、行くだけなら順当にやればまあ普通に行ける」って、内心、思ってるでしょ。でも実際はそうじゃない人のほうが大多数でしょ。本人の努力じゃどうにもならない外部要因は除くとして、練習時間、身体特徴、「もっと速く泳ぎたい」という気持ちにさほど差はないとしたら、あとは観察して思考する能力の高さ、たとえば、自分の特徴や状況とフラットに向き合い、改善点や可能性をすべて洗い出して、想定して、検証して、追求して、他人に意見を求めて、そうやって深めた知見に汎用性を持たせて、複数の事象間に関係性や差異を見出すことでさらに視野を広げていく…そういうこと(=さっきの「順当にやれば」)ができるかどうかなんだろうけど、そんな難しいこと考えなくても生きていけるしね、“普通”は。
普段の練習での感想や気づきなんて、いちいちアウトプットしてシェアして昇華しなくたって、生きていけるもんね。頭の中で「今日は5,000m泳いだ」「腕がキツかった」「体力つけなきゃなー」くらいで終わっちゃってても、帰ってあったかいご飯食べてyoutube見て寝るのは許されるし。
そういうレベルでの“普通”です。
話を元に戻して、問題は、単語眺め星人も、がんばってないわけじゃないってことです。
タイムが出なくて影で泣いてたりとか、大学を卒業したらもう水泳はやりたくないとか、もう若くないし仕方ないんだとか、才能がないんじゃないかとか、私水泳向いてないのかもしれないとか、そこまで思い詰めるほどがんばっているのを、私は知っています。
大学進学先という人生のターニングポイントのひとつに関わっていて、ひとり数十万円も数百万円もぶっこまれている予備校の進路指導担当という立場であれば、その悩みひとつひとつに責任を持って一緒に慎重に考え導いていく必要もあるでしょうが、習い事の中のひとつとか、ただよく一緒に泳ぐ趣味仲間のうちのひとり、くらいの距離感の相手だとしたら、いちいちそこまで踏み込む必要も責任も義理もないわけで、そしたらその単語眺め星人が水泳で開花できるかどうかって、コーチでもチームメイトでも誰でもいいけど「どうやったらもっと速くなれるか?」「客観的に見て自分はどんな泳ぎをしているのか?」「他の競技ではどうしてるんだろう?」みたいなのを無限に考えて調べて議論するのが好きでたまらない人がそばにいて、単語眺め星人もその人と話をしていろいろ試したりするのは嫌いではなくて、という環境に身を置けるかどうかにかかってるといっても過言ではないわけだけれども、そんな環境に選んで行けるんだったら最初から単語眺め星人にはなっとらんわい!!! てかそれさっき「本人の努力じゃどうにもならない」からって除外した外部要因じゃん!!!!!!!! ということです。運ゲーやんけ。
わかる! わかるよ! 運ゲーじゃあまりにもアレだよね! だからさ、私だって別に聞きかじったことしか教えられないけど、教えてほしいと頼まれたときにはできるかぎり全力で教えようと思ってるわけ! 直近だってさ、魔女トレを受けたって言ったときにもみんな「どうだったの!? やったこと教えて!!」とか言ってきたじゃんね! で!? そしたらどうだった!? 「へぇ〜、難しい〜」「できな〜い」で2秒で終わったろ!? 正月挟んじゃったからちょっと久しぶりになっちゃったけど時間はあったから練習はいくらかしてきただろうと思いきやあっけらかんと「あ、それ〜! 去年ぶりにやります〜!」とか!! なあ!! そういうとこやぞ!!!!!!!!!!
私の教え方がうまくなかった可能性はそりゃあるし、すぐにできるようになるわけないのもわかってるし、他にも意識したいこともあっていっぺんにできないってんならそれは納得だし、教えたぶんを報われたいわけでもないんだけどさ…。身体の使い方やその人に合った泳ぎなんて十人十色だから、私の考え方やアプローチ方法じゃ合わない場合があるのもわかる…。だから、言ったことをそのままずっとやり続けてほしいとは思ってない…響いたところをエッセンスとして取り入れてくれれば…。
けど、「背中使うの難しいよね〜」「骨盤ね〜、全然動いてくれないんだよね〜」「どうにも脚が揃わないんですよね〜」と、できないことで共感しあって、それは何も生まないよな…?
いやいやいやまあまあまあそれも100歩譲って許そう、プライドもあるからうまくできないことを人前で素直に認めたくないときもあるよな、でもお前、半年前も結局背中全然使えてなくて腕しか動いてないのがベスト出なかった原因だって自分で言って、大会会場で涙こぼしてたじゃんかなー!?!??!??!?
単語眺め星人は、そういうところあるから注意です。
別にね、ここから腕を3本に増やしますとか、脚の関節をもう4つ増やしましょうとか、そういうことを強いられているわけではないじゃんか。力の加減とか、角度とかタイミングとか、意識してこなかった動きを取り入れるとかって、それの実現のための手順はいくらでもあるだろうけど、結局のところ、やろうとしなきゃ、できるようにはならないわけじゃんか。1回やってみて理屈はわかった、今は難しかったけど別のタイミングでやってみたらできるかも、今日はダッシュの練習が多いからフォームを気にしてる余裕がなさそう、じゃなくてさ。起きてる間はずっと意識するんだよ。好きなアイドルの名前は親を呼ぶより連呼してるし何度も復唱してるから歌詞もバッチリだしSNSも毎時間チェックしてるし授業中仕事中もふと気づくと好きなフレーズが頭の中で鳴ってるくらい没頭してるわけだろ? 身体の使い方も、ポイッと私や質問箱に聞いて答えだけ入手して終わりじゃなくて、それくらいの密度で情報収集して反復練習すればいいんじゃないかな。大会会場で涙を流すくらいならさ。
そろそろブーメランになってきたので締めます。
話に具体性を持たせようとするとどうしても特定の人物像を晒すことになってしまってそれは本意ではないので、10代の頃の私の単語眺め星人っぷりを次回は書こうと思います。10ウン年越しの反省文。
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